月を眺めるに背が高い必要はない 4

日没ばかりを探していると、夜明けを見逃す。

まつかくです。
ようやくサイン会イベントも終わったから、感想みたいなものを書き残しておきたいと思う。参加者ならびに関係者の方々、ありがとうでした。

トークイベントの内容に関しては、来てくれた人たちへのプレミアムということで俺の口から言えることは何もありません。
なんだか50人が上限で打ち切りだと思っていたけど、58名が来られたそうです。ありがたいこってす。大半が2冊目を買っての入場というのは、すごく申し訳なく思いましたね。

そして、俺が壇上で喋りすぎたせいで、一人あたりに振り分けられるサインの時間が減っちゃったみたいで、1人1人とはほとんど喋れなかったのが残念っすね。
せめて1人10分は話してみたかった。ほんと時間がなかったのが惜しまれる。

面白そうな事件を教えてくれた人もいたし、未解決事件ファンの方、面白いプレゼントをくれた人もいたし、クリミナルマインドのモーガンが降板したことを教えてくれた人もいたし、小説の話をしてくれた人、と学会の方に一級河童懲罰士の先生も。
特にビビったのは来てくれないと思ってた花田先生と、動く待ち合わせ場所帽子で知られる中沢さんと、ミステリアスな謎の美女を連れた幻解超常ファイルのディレクターさん、俺がサインほしいですよ。愛されるよりも愛したいマジで。

面白いプレゼントもたくさんもらいました。大分麦焼酎二階堂と米はワロタ。「これだけプレゼントを持ってこられるサイン会も珍しい」とスタッフの方が言ったおられたけど、俺の卑しい性分を皆はしっかり見抜いていたということですね。実はいま貰った菓子をつまみに酒を飲んでいます。へへ。やったね松閣。うまうま

意外だったのが「小説かけよな」という声もあったこと。
たまにメールとかで「おい、続きかけよな」という恫喝めいた声は頂くが、直接言われることに慣れていないので挙動不審になってしまった。オカクロの読者層と小説の読者層はほとんどかぶっていないと思っていたんすけどね。
小説って13月と偽名仮名のどっちなんだろ。それすら聞く時間がなかった。君たちは流れる季節よりも、光陰よりも早く、俺の前を通り過ぎて行ったね。

ほんで横でサインしてる本城さんはめっちゃ達筆なのに、俺とか象形文字を開発したばかりの縄文時代の発明家みたいになってるワケっすよ。松閣家の名を汚す行いなワケっすよ。ちなみに何人かのサインは『松間』になってます。ジョークじゃなくてミスです。言ってくれたら書き直します。

ともかく、読者の方と話すというのは、新鮮でいいすね。ふだん、メール送ってくる人なんて、大半が批判とクレームと、マウントとスパムばかりなので、面と向かって「あなたの書く文章、大好きです」と言われる機会なんてないぶん、少しだけ誇らしい気持ちになります。その一方で騙しているような気持にもなるけれど。俺の文章より、俺を好きになってください。

ある男性は、「楽しそうでうらやましいです。応援してます」と言ってくれましたが、そうでもないのですよ。本当に孤独な作業ですからね。11日の誕生日も誰に誘われることもなくひとり16日向けの資料を作ってましたから。そして今も一人で酒を傾けながらこうして世迷言を書き散らしているのですよ。ミジメでしょう？

そういや前にね
「独身の男の人って、休みの日とか何してるんですか？」

とか仕事関係の人に聞かれて、なんとなく軽口をきいてやろうとおもって
「ミジメなこと」って言ったワケ。

内心「ええーｗミジメな事ってなんなんですかーｗ すごく気になりますー」って反応を期待したワケすよ。そこから、めくるめく松閣ワード・ワールドに誘おうと思ったのね。そう、そこは入ったら抜け出せない、魅惑のワード・ワンダーランド。俺がピーターパンになり、君がティンカーベルになり、手を取りゆこう、二人のエバー・ネバー・ランド。

でもね、違った。
その女言うわけ
「気持ち悪いｗ」
で、結局、そのまま彼女はどっか行った。聞いてくれよ、と俺は思った。聞いてくれなければ俺は『軽口で女をイワすイケてるお兄さん』になり損ねたどころか、『休みの日に（得体の知れない）ミジメなことしてるキモいヤツ』に堕してしまう。否、堕してしまった。わかる？ このとんでもなくミジメな気持ち。考えた事ある？ 前に教えたよね？ ちゃんと聞いてた？ 何度も言わせないで？

バイト先に一人はいる（結構な確率でオープニングスタッフの）嫌な先輩っぽい言い方はともかく、非常に俺は打ちのめされたわけ。わかる？
被害妄想かも知れないけれど、たぶんあの女性の中で、おれの言う『ミジメなこと』って自慰的ななにかと思われたようにも感じるワケすよ。

これヤバくないすか。
そんな気もないのに、もしそう思われたのだとしたら、ややセクハラでもあるじゃないすか。

でも、彼女を追いかけていって、彼女の肩を引き
「オナニーじゃない！ オナニーじゃないんだ！ 決してオナニーではない！ オナニーなわけないだろう！ ほら言え、オナニーじゃないと！ 言え！」
とか弁明しようモノなら、もう完全に変質者なワケっすね。クリミナル・マインドでいうところの『能力確認型レイプ犯』みたいな感じになっちゃうよね？ でも本当はオナニーもするわけで、俺は嘘吐きにもなってしまう。「虚言も能力確認型レイプ犯の特徴だ」とかなんとかFBIの行動分析課とかがシタリ顔で分析するワケ。

手詰まりだよ。本当に。
あの日、俺はどうすれば良かったんだろう――と今でも落ち込む夜がある。

ちなみにギャル系の美人に同じ質問されて、同じように答えたら「ウケルｗ」と言われたこともあります。

それだけね、軽口ってリスクを負っている事にみんな気がついて欲しい。軽口を言うタイプの人間はね、ほんの一瞬の、君たちの笑顔のために、ほんの一瞬のフフッと笑う君のために、これだけ多くの犠牲を払っているの。

サイン会の日、聞きましたよ。出版業界、オカルト界隈の雲の上にいる人たちの中でも「オカクロ、おもろいな」という声があることを。そして「でもネタは滑ってる」という心ない評価が少なからずあるということを。これにはワロタｗ
いや、しかしコレは正しい。たしかに滑ってる。俺も読み返したとき、腹が立つことがあります。我ながら「何言ってんだコイツ」って。「こりゃ酷い」と。

でもね、いいんすよ。それで。100人が寒いと思っても、1人でも笑顔にできたら俺は本望なんですよ。俺の勝ちなんですよ。それこそ価値なんですよ。
だから俺は自らに問い続けたい。そして考え続けたい。
下ネタ以外で、誰か笑顔にできるベストアンサーを、いつも。