全てに徒労を教えねばならぬ。
全ては徒労だと教えねばならぬ。
ひさびさの松閣です。
寝るに寝られない時間になってしまったので、たまにはなんか、どうでもいいこと書きます。
近所のコンビニがサークルKからファミリーマートに変わった。
これ自体は仕方のない事なので、どうということもないが、俺を魅了してきたジャンボ焼き鳥ハラミが食べられなくなった。これは困る。
意志の弱い人間が論理的ないし倫理的に自己の欲望を正当化したいとき、よく「自分へのご褒美」という甘えた表現を使うが、俺にとってのご褒美がまさにソレだった。ジャンボ焼き鳥だったのだ。
俺のように人一倍頑張らないと成果が出せない人間には、人一倍ご褒美が必要で、ジャンボ焼き鳥はその役目を充分に果たすモノだった。肉のひと欠片ひと欠片に鶏たちの魂が感じられ、皮の一枚一枚に鶏たちの息吹が、もも肉の一切れ一切れに鶏たちの躍動があった。まぁ、死体なんだけどさ。
ともかく、あれは濃厚な味と歯ごたえで、俺を虜にした。
ジャンボ焼き鳥。君は覚えているだろうか初めて出会った日を。俺は覚えているよ。
セールか何かの日だったね。薄汚れた店内、垂れ幕の原色が人気のない店内に寒々しかったね。
いつものパートのおばちゃんが、商品ケースの中いっぱいに君たち焼き鳥を積み上げていた。それこそ死体の山だったね。もっと正確に言うなら、串刺しにされた死体の山だったね。商品ケースの前に立った俺は、君から見たらドラキュラ公ことヴラド・ツェペシュ公に見えたんじゃないか。
おばちゃんの言葉を覚えているかい? 彼女はにこやかに言ったんだ。
「すごく美味しいですよ! どうですか、お酒のお供に! いまなら税込み1本100円ですよ!」
安いのか高いのか相場がわからなかった。イオンでは88円で売っているぞ、と思ったけれど、イオンのそれよりは君たちは大きく見えて、少なくとも新鮮に見えた。ゾンビにたとえるなら、まだギリギリ人間の思考能力が残ってる感じの新鮮さだ。
――だが太るしな。
こんな俺の思考を看破したかのようにオバちゃんは駄目押しで言ったよね。
「おいしいですよ!」
その目は「いまさら太るとか気にしてんじゃねぇよ! てめぇはブタらしくむさぼってりゃいいんだよ!」という眼だった。
君たちは美味しかった。まるで串刺しにされて焼かれるために生まれてきたかのように美味かった。
あの日から、事あるたびに君たちは俺のご褒美となってくれたね。たまにカラカラのハズレの日もあったね。あれはクソだったね。死体の上にクソって、もうほんと救えないよね。
あの日からどれだけの時間が経ったろうか。
サークルKからファミリーマートに店名が変わり、おばちゃんも消え、君たちも消えた。
そして、ご褒美を失った俺だけが、こうして年を取り、取り残されている。
あの日、初めて出会ってしまった日から、俺は無意識に君たちと他の焼き鳥を比べてしまう自分を発見していたよ。具体的にはイオンの焼き鳥と比べていたよ。
もちろん君は『ジャンボ』で、イオンのは『ただの焼き鳥』。比べるのが間違いなのだろうけど。そうしてしまう自分がどうしても抑えられないんだ。いつのまにか君に骨抜きにされていたんだ。実際は俺が串を抜いてたんだけど。
知っているかい? ローソンがジャンボ焼き鳥を始めたのを。
販売促進旗に『ジャンボ焼き鳥! おいしい!』って書いていたよ。きっとそうなんだろう。チラッと見たら、まぁまぁ大きかった。ローソンのそれは、君を失った喪失感をきっと埋めてくれるのだろう。
だが駄目だ。
君を上書きするようなマネはできない。『ジャンボ』は永遠に君のものだ。ぽっと出の二番煎じのヤツらにその座を奪う権利なんてない。俺と君の思い出を汚す権利は神にだってないんだ。ヤツらは『マチのほっとステーション』とか自称しているけれど、俺に言わせれば『ぽっと出 ステーション』だ。追憶の侵略者だ。
こうして、俺は君の亡霊とまだ一緒に居る。
イオンの安っぽい、どこの肉かも判らない肉塊串に唇を預けて、「ジャンボはこうじゃなかった」「ジャンボは違った」「ジャンボなら、ジャンボなら……」と、むなしく肉塊を罵り、うつろな味に満足できない自分を慰め、腐ってゆく。
そんな自分が嫌になって、自暴自棄になって、俺はフライドチキンを買った。
贋物じゃない、本物のやつだ。
カロリーも金額も気にせず、ただ自傷のように食べる本物のフライドチキン、ケンタッキーフライドチキン。
マジうめぇwwwwwwww
ジャンボ焼き鳥美味しそうですね!でもやっぱフライドチキンには敵いませんよね笑
私にとってのご褒美は松閣さんの文章を読むことです!学校とバイトのストレスが溜まった時はついつい読んでしまいます。そうでなくても何度も読み返してしまいますが笑
お仕事お疲れ様です!個人的にはいももちをオススメします。今度のご褒美にぜひ試してみて下さい笑
>>さびさん
松閣でございます。リプライ遅くなってごめんなさい。
ジャンボの良かった点を挙げればキリがないですが、きっとこれは「失ってから大事なことに気づく」典型例なのでしょうね。だからこそ、この教訓に学んで、これからは「いま大事なモノ」をしっかりと見つめ、きちんと認識し、ちゃんと言葉にする、という行動に変えて行けたら良いなと思うのです。つまり、「ケンタッキーフライドチキンの中でも、手羽っぽい部分」を愛していると、君なしでは生きられないと、俺は声をますます大きくしてうったえるのです。
PS
いももちって、スライムみたいなやつですか?